人がミスをするとき、その瞬間だけを見ても本当の原因は分からない。
多くの場合、ミスは突然起きるのではなく、その前段階で何かが静かに変わり始めている。
私は最近、「ミスする前兆」をどう観測できるのか、というテーマで小さな研究を始めた。
ここで言う前兆とは、注意力や集中力を評価したり、良し悪しを判断したりするものではない。
むしろ、評価や断定をしないまま、人の状態が揺れ始める瞬間を捉えることを目的としている。
この問題意識は、安全や作業の分野だけでなく、音楽の演奏にも強く関係していると感じている。
演奏中に起きるミスも、単に「指が動かなかった」「テンポを外した」という結果だけを見ても、本質は見えにくい。
実際には、演奏が崩れる少し前から、リズムの安定感や反応の質がわずかに変化していることが多い。
既存の手法では、反応が遅くなった、ミスが増えた、といった“結果”が指標になりがちだ。
しかし演奏でも作業でも、本当に見たいのは、その結果が表に出る前の、ごく微細な変化ではないだろうか。
この研究では、特別な装置や侵襲的な計測は用いない。
日常的な環境で取得できるデータをもとに、個人差を前提とした観測を行う。
また、数値によるスコア化や「良い・悪い」「集中できている・いない」といったラベル付けは行わない。
あくまで傾向としての変化を扱い、解釈を押し付けない姿勢を大切にしている。
このアプローチは、即効性のある改善法を提示するものではない。
だが、安全、スポーツ、作業支援、そして音楽演奏といった分野において、
「何かが崩れ始める前に気づく」ための共通した視点を提供できるのではないかと考えている。
まだ研究は始まったばかりで、具体的な方法や結果については今後慎重に検討していく予定だ。
この場では、まず問題意識と方向性だけを共有しておきたい。
ミスをなくすことよりも、
ミスが起きる前に、リズムや反応の揺れに気づけるか。
その問いに、静かに向き合っていこうと思う。